青年海外協力隊の数ある職種の中でコミュニティー開発(村落開発員)に続き派遣人数が多いのは理数科教師である。派遣数が多い理由としては「成果がはっきりしている」「人材が集めやすい」等であろう。以下、理数科教師に関する二つのトピック(BODMASとシャツ)を紹介する。
1.BODMAS
協力隊の任期中、同僚の先生方や生徒が簡単な四則演算を同じように間違えることに気付いた。原因はBODMAS(ボドマス)だった。このBODMASとは計算順序の覚え方で、一部のガーナの初等教育で教えられているとのことである。
B→O→D→M→A→Sの順で計算する。
B Bracket(括弧)
O Order(累乗)
D Division(割り算)
M Multiplication(掛け算)
A Addition(足し算)
S Subtraction(引き算)
この覚え方は、「四則演算ではBODMASに従って計算する」という点が強調されてしまうため、演算子(オペレータ、いわゆる四則演算の記号)と非演算子(オペランド、計算対象の数)とを混同してしまう危険性がある。誤用すると、以下のような計算で誤答してしまう。
9-3+4=2
BODMASによれば、足し算(Addition)を引き算(Subtraction)よりも先に計算する。ここで、「3+4」を計算してしまう勘違いが発生する。そして、「9-7」となり答えは「2」の誤答となる。非演算子(オペランド)として、「-3」が認識されてしまわなかったことが原因だ。
同時期に派遣されていた理数科隊員にこの話をすると、同様の事象が発生しているとのことであった。
「四則演算もできない」
私を含めて当時の理数科隊員は鬼の首をとったかのように騒ぎ立てた。
今思えば、当時の我々は自分たちの活動を正当化したくて問題を誇大に斟酌していたのだと思う。ミスした政治家や芸能人を責め立てる、自分が聖人君子だと勘違いしているマスコミや大衆と何ら変わりがない。自分が情けない。
コンピュータプログラミングの世界では、簡単な四則演算とは異なる多項演算や逆ボーランド記法などの表記法はたくさんある。四則演算の順序は単なるルールであり、唯一絶対のものではない。小学校の教科書に載っている事項が全てだと信じ、その範囲内でしか判断できない勉強不足の人間に人を非難する資格はない。
英語の文法や単語、発音がメチャクチャな協力隊隊員、社会経験も浅く自分の限られた知識が絶対だと信じている若造が何を偉そうなことを言っているのか。反吐が出る。
あの頃の自分を殴りたい。
2. シャツ
ガーナ青年海外協力隊奨学金制度を作ったM隊員、日本での教員経験が長く、若い理数科教師隊員を引っ張ってくれていた。
ガーナに赴任した直後の理数科教師隊員はM隊員の赴任先であるアコソンボで実習に参加させてもらった(アコソンボ訓練と呼ばれていた)。当時の若い我々はM隊員に対して感謝はするものの、散々日本で訓練を受けて来て更に実習をしないといけないということに反発を覚えていた。そんな失礼極まりない若輩者の我々に対してもM隊員は先輩教師・隊員として丁寧に接してくれていた。とても優しい人徳者であった。
そのM隊員が一度だけ実習中に激高した。ある隊員がヨレヨレのTシャツで実習をしようとしていた時である。
「一生懸命お金を集めて授業料を収めている生徒たちに失礼でないか。そして何より教師としてのプロ意識はないのか。自分の職場だぞ。そこにTシャツで来るのか。それでもオマエはいいのか。」
この言葉はその場に居合わせた私の心に響いた。教師としての自覚が足りていなかった自分が恥ずかしかった。「プロ意識」という言葉もこの時初めて腑に落ちた。服装に限らず、段取りや体調等を管理してから初めて「プロ」ということになるのだろう。
今の職業は教師ではないが根っこは同じだ。今の自分がM隊員の言う「プロ」と呼べるかどうかは分からないが、「プロ」を目指す気持ちは忘れたくない。
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