親父が東京にやってきた午後、我が家にある万年青(おもと)の鉢を手に取り黙々と作業を始めた。その動きは本当に植物が好きな人間しか出せない、大胆さと繊細さの混じり合った見事な手際だった。それを横目で見て自分には到底真似できないと早々に悟る。
いくつかの指摘を受ける。首元まで水苔が覆われていなかったこと。それから秋の間、水を与えなかったこと。自分が無意識のうちに犯していたミスが、今こうして万年青の状態に影を落としていることを知らされる。特に珠光は根が完全に失われ、これから私が枯らしていく数々の万年青の第一号となった。
だが力和と瑞泉は健在だった。こちらは一目見ただけで元気な状態だと分かる。親父が「割り子」と「芋切り」について語り始める。その説明には何とも言えない静かな情熱が込められていた。輪波獅子を割り子で増やし、力和と瑞泉を芋切りで新たな命に繋げる。その作業の中で、私は緊張のあまり切り口を少し傷つけてしまう。しかし、それを見て見ぬふりをする親父の寛容さは、やりたい放題やっている私のことをいつもそばで暖かく見守ってくれるおやじの姿と変わりがなかった。
これから数か月、植え替えた万年青がどのように育つのか。手の中から送り出した命が、どんな未来を描くのか、楽しみは尽きない。
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