<こたえ合わせ22>オージーハズバンド会

シドニーに駐在していたころ、奥さまたちのつながりを起点に、家族ぐるみの付き合いが自然発生的に広がっていった。週末になると誰かの家でホームパーティーが開かれ、ダンナたちも決まってそこにいた。自発的というより、ついてきた、あるいはついてこさせられた、という方が正確だったかもしれない。

仕事も経歴も交わらないダンナ同士だったが、その場限りの妙な連帯感だけはあった。自分の妻でなくとも、ワイングラスが空きかければ黙って注ぐ。子どもと遊ぶときは全力で手を抜かず、片づけや準備は言われる前に動く。そうした役割を滞りなくこなすため、ダンナたちはいつしか目配せや合図のような、特殊なブロックサインを身につけていた。見落としや不注意は即座に減点対象になる。奥さまのワイングラスが空になっていようものなら、それはもう大減点だった。

奥さまたちはどこで仕入れてくるのか、「オージーハズバンドはこうあるべきだ」という共通認識を、すでにしっかり共有していた。その最上級の称号が「Nice bloke」である。見えないが確実に存在するその基準が、静かな圧力となってこちらに降り注いでいた。

Nice blokeに必要なのは、立派な経歴でも雄弁さでもない。とりわけ重要なのは雑談力だった。「おじちゃんかまってちゃん」や、うっかり口を滑らせる成功談は完全にアウト。話すために話すのではなく、場を軽くするために言葉を置く。そういう種類の会話だけが、辛うじて許されていた。

それから二十年が経った。かつてNice blokeを共に目指したダンナたちが、当時の苦労らしきものを懐かしむように渋谷に集結した。オージーハズバンド会である。若いころに刷り込まれた特性なのか、当時のダンナが集まると、話題は自然と「奥さま方に喜んでもらえる企画」へと流れていく。

というわけで、近日中に奥さま方を含めたパーティーを開くことになった――と、少し引き気味に、いかにも大人の余裕があるふうに振る舞いながら、実のところ、再び奥さま方の前でオージーハズバンドになれることを、ひそかに楽しみにしている自分たちがいる。その事実を互いに確認した、渋谷の夜でした。

〇死ぬまでにやる100リストNo.321「100の人生の答合わせをする」進捗22/100

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